010.星
どうしてこんなやつすきかって?
そんなこと俺が訊きたい。
何だってこんな、方向オンチで普段何考えてるか分からないようなやつをすきになったんだ俺は。
別にすきになったことを後悔してるわけじゃないけどさ。
だって放っておけないじゃないか。あいつはすぐいなくなるし。
“迷っている”ことにも気づきもしない、無自覚で思考の読めない変なやつ。
そんなあいつだからこそ、気になってしまうのかもしれないけど。
「さーもーんー!さーんーのーすーけー!どこだー!」
今はもう何時だろうか。月は空のてっぺんまで登ってるし、もうご飯を食べた時間からだいぶ経っているように思える。
そんな時間に、俺を含めた仲間たちは3年の問題児・左門と三之助を探していた。
夕飯は俺たちみんな一緒に取った。
その後、部屋に戻る際にいつの間にかいなくなっていたと作兵衛が俺と数馬と孫兵に泣きついたことがはるか昔のことのように感じられる。
それほど長い間、俺たちは迷子組を探していた。
学園の中はもちろんのこと、学園の周りや近くの山、裏山までと広い範囲に渡って探しているのに見つからない。
こんな広い敷地の中をたった6人で、たった2人を見つけるというのだから捜索が困難になるのは当たり前なのだろうけど。
見つけたら殴ってやりたい、あいつら。
もちろん心配もしているけれどこう日常茶飯事になったのでは深く心配もできない。
どうせ何ともない顔をしてひょっこり出てくるのだろう。
そしてさらに数刻経った頃。
「あれ、藤内何してんの?」
ほら、ね。
俺が裏山の中腹で草木を分けながら2人を探していたら、生い茂った木の中からひょっこりと三之助が姿を現した。
「…はぁ」
俺はわざとらしく、ため息をひとつついて見せた。
見つけたら殴ってやりたい、なんて思ってたけど実際見つかったら殴る気も起こらない。
どんなに怒ったところでこいつの無自覚は治らないし、どうせまた行方不明になってしまうのだから。
「ため息つくと幸せ逃げるぞ藤内」
迷っているうちに汚れたのか、土やほこりにまみれた体を曲げて、俺の目線に合わせて三之助は言った。
そうやって幸せを逃がしてしまったのはお前のせいだ。
三之助にそう文句を言いたかったが、生憎疲れていてそれすらも面倒くさい。
「ほら、もういいからさっさと帰るぞ」
とりあえず三之助が見つかったという報告だけでもして長屋に閉じ込めておかなくては。
俺は三之助の手を無理やり引いて連れて帰ろうとした。
しかし。
「いや、そっちじゃない、こっち来て」
「は? って、お前…!どこ行く気だ!」
三之助が俺の手を握り返して、俺を学園とは反対の方向へ引っ張って行こうとする。
そっちじゃないって、学園の場所分かりもしないお前が何を言うか!
大体せっかく見つけてやったのに何だそれは!
俺は疲れた体を酷使してそう叫んだのだけれど、三之助は曖昧な返事ばかりをして取<り合ってくれなかった。
俺の手を強く握ったまま、三之助はどんどん歩いていく。
でもまた迷子になるのではないかと、俺の不安は募る一方だった。
「…着いた」
三之助がおもむろにつぶやいた。
三之助は着いた、と言っていたけれどここには何もない、ただの原っぱだ。
「…何、ここ、どこ…?」
何もない原っぱを見て俺の不安はさらに増す。本当に三之助はここがどこだか分かっているのだろうか。
「藤内、上」
「上?」
三之助が言うとおり、俺は上を向いた。そこには。
「あ…すごい…綺麗…!」
見上げた先には、数えきれないほどたくさん、しかも美しく輝く星があった。
その星の壮大な綺麗さは俺の抱いていた不安をすべて消し去り、俺の心は星の光で満たされた。
俺はしばらくの間、星の美しさに見とれていた。
「綺麗だろ」
しかし三之助のその一声に俺は現実に引き戻された。
「うん、綺麗。最近夜空なんか見なかったもんなあ」
「藤内ずっと夜は下向いて勉強してるからなあ」
三之助も空を見上げながら言った。
だけどその一言で気がついた。気がついてしまった。
「まさか…俺に見せるために…?」
俺の言葉に、三之助は俺の方を向いて少し笑って見せた。
「いっつも勉強ばっかりじゃあだめでしょー」
そう言って笑う三之助に、俺の心がほっと温まった。
やっぱりこいつは放っておけない。
何を考えているのか全然分からないけど、だからこそ俺の方が何か気づかされることだってあるんだ。
「…三之助」
「ん?」
「ありがとう」
あの星たちが輝く空の下、俺たちは学園へと向かう。
「方向オンチなのによくあそこまで行けたな」
俺はからかい半分に三之助に言った。
「? できるだろ俺なら。左門なら無理だろうけど」
出た、無自覚。相変わらず自分の性格を認識していない。
「藤内のためなら俺は何だってできるんだぞー」
三之助は笑いながら言った。
「…そう、かもしれない」
確かにさっきは三之助は目的地にたどり着いた。俺のためと言って。
苦手なこともやってのけたのだから、本当に何だってできてしまうのかもしれない。
俺のためというのが少し恥ずかしいけど、嬉しい。
「早く帰ろう、三之助。みんな待ってる」
「はいはい」
いくつとも分からないほどの星が瞬く中、俺たちは帰るべき場所へ急いで向かった。
END.
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次浦でしたー
次浦といったら方向オンチネタはやらねば!と思い(笑)
大丈夫ですちゃんと左門ちゃんも見つかりましたよ!
三之助は隠れ男前!