03.嬉
「へーすけーーーー!!!」
「な、何事ーーー!!?」
久々知兵助が廊下を歩いていると、同学年の友達がいきなり泣きついてきた。
「あのさ、僕迷ってるんだけど!」
この一言を聞いて久々知は彼が誰であるのかを確信した。彼は不破雷蔵だ。
というのも、実は不破雷蔵にそっくりな人物がこの学園内にはいるのだ。だが双子でも兄弟でもない、まったくの別人だ。
それは鉢屋三郎。
変装の名人で、四六時中誰かの変装をしているが、いつもはこの不破雷蔵の格好をしている。
学園内で彼の素顔を知っている生徒はまずいない。
同部屋の雷蔵はどうか知らないが。
ちなみに彼は変装も上手けりゃ術も上手い。
もしかしたら六年生以上の実力があるのではと謳われるほどだ。
そんな彼と雷蔵を見分ける方法はただ一つ。性格だ。
迷い癖があって温和で優しい雷蔵に比べ、鉢屋三郎は人で遊んだり悪戯したりと結構ひょうきんな性格だ。
だから久々知は“迷ってる”の一言を聞いて、泣きついてきたのは雷蔵だと分かったのだ。
いやでももしかしたら三郎が雷蔵の真似をして遊んでいるのかもという疑いも心の片隅に引っ掛けながら。
「で?今度は何で悩んでるの?」
「あのさ、明日休みでしょ?だからさ、三郎と一緒に遊びに行こうかなーって思ってるんだけど、甘味亭か散歩に行くかで迷ってるんだけど…」
両方行けえええぇぇぇえええ!!!
と心の中で久々知は叫んだが、そう言えば今度は彼がスケジュールで迷いそうになるので止めた。
「雷蔵はどっち行きたいの?」
「どっちも良いんだよね…」
「じゃあ三郎に聞けば?」
「僕から言いたいの!いつも連れてってもらってるのは僕だから…」
「もういっそのこと“どちらにしようかな”で決めちゃえば?」
「だってそれやって三郎が行きたくもないところに連れて行っちゃうのも嫌だし…」
「でもさ、その二ヶ所だってお前がいいかもと思って選んだんだろ?」
二ヶ所に絞れているだけまだいい。
彼のことだ、どうせ他にも買い物に行こうか遠出しようかと迷ったことだろう。
そう思っての久々知の発言だった。
「うん」
「だったらもうどっちでもいいんだって。お前が誘ってくれた時点であいつはすごく喜ぶはずだよ」
「…そうかな」
「そうだって!」
「久々知せんぱーい!」
不意に、廊下の向こうから四年生の綾部喜八郎の声がした。
「ああ、ごめん綾部!」
「え、何?何か約束あった?」
「いや、綾部が新作の落とし穴作ったから先輩是非見てくださいとのお誘いがあって」
「それはまたすごい誘いだね…」
久々知は苦笑してから、綾部についでに外に用事あるから準備してくるから外で待っていてと告げ、その場を去った。
彼が去ったあと、綾部はなお廊下にいる。
「? 綾部君、外に行かなくていいの?」
雷蔵が気になって声を掛けた。
と同時に、雷蔵は綾部のものではないオーラを感じ取った。
「まっ…まさか…」
「はいそのまさか。さすが俺の嫁。すぐ分かってくれて嬉しいよ♪」
綾部―――否、綾部に変装したその人は、すぐ雷蔵の姿をして雷蔵に歩み寄った。
そう、彼こそ変装の名人鉢屋三郎。
「いいの?兵助にあんなこと言わせておいて」
「いーのいーの!実際綾部は外にいたし、俺も綾部に許可取ってから来たしな」
雷蔵の姿は無断拝借だが。
「…もしかして、さっきの話…」
雷蔵は恐る恐る尋ねた。
「きーたきーた!全部きーた!本当はお前が兵助に抱きついたときに引き剥がしてやろうと思ったんだけどやめといたらさ、いい話聞いちゃったよ♪」
三郎はいつにも増して楽しそうに言う。
「あーあ、それじゃあもう僕は三郎を誘えないじゃないか」
「どうして?」
「だって聞いちゃったんだろ?行き先も何もかも」
「でも二択じゃん。まだ誘えるだろ?」
「え」
「どっちに行くかお前が決めて、ちゃんと俺を誘ってみろって」
「えー!?いーじゃんもう全部聞いたならさ!」
「誘いたかったんだろ?それで兵助に泣きついたんだから、罰だよ」
「ば、罰って…悩んだだけなのに…」
そして雷蔵はまた悩み始めてしまった。
もう日暮れだ。雷蔵はいまだに悩んでいる。
そんな彼をにやにやと見つめながら、それでもちゃんと待っている三郎。
彼は自分のことで雷蔵が悩むのが好きだった。
だってそれは三郎のことしか頭にないということだから。
今だってそう。どっちに行ったら三郎は喜ぶかな、と。
三郎の嬉しがる顔を見たいが為に、悩んでくれる恋人。
そんな人がいてくれることに、また嬉しさが込み上げる。
「決めた!」
雷蔵が大声を上げた。
「三郎、町に行こう!!」
二択のどっちでもないじゃないか。
三郎は苦笑して、でも嬉しそうに笑いながら言った。
「もちろんいいよ」
明日もっと、僕がすることで君が嬉しさを感じてくれますように!
END.
-------------------------------------------------------------------
夫婦きましたよ
鉢雷の基本は「お互いがお互いを大好き!」ですw
うっかりはっちー嫁宣言(笑
なんかこうしてみると鉢屋さんってSっぽいd(ry