はっぴーくりすます!2010
これは、クリスマスまであと1週間となったときのこと。
この街にある大学に通う学生・久々知兵助は、授業が何もないこの日商店街に買い物をしにやってきていた。
今日は基本的には晴れているけれど、気温自体が低いし時折吹く冷たい風が余計に寒さを感じさせる。
兵助もその寒さを少しでも和らげようと、黒いマフラーに顔を少し埋めて、白いコートのポケットに両手を突っ込んで歩いていた。
そうしてしばらく歩いていたのだが、兵助はふと顔を上げて、自分の横に並ぶ店を何気なく見た。
兵助の視線の先にはオシャレな服飾店があって、その店内にあるマネキンの首に、緑と黒のボーダーの暖かそうなマフラーが巻いてあった。
「(はっちゃんの色だ…)」
そのマフラーを見たとき、兵助は瞬時にそう思って、そして少し頬を赤らめた。
彼の頭の中では、緑というのは同じ大学に通い同じ学年である友人・竹谷八左ヱ門のイメージカラーなのだ。
なぜなら、竹谷は自然保護関係のサークルに入っており、しょっちゅう山に行っては昆虫採集してその生態系を調べたり、植樹活動を行ったりしているからである。
自然の中で生き生きとする竹谷は、兵助にとってはまぶしい存在だ。
まぶしい存在であり、愛しい存在でもある。
入学して数カ月経った頃、兵助は同級生の鉢屋三郎に竹谷八左ヱ門を紹介された。。
竹谷は明るく気さくな性格で、人と親しくなることに慣れていない兵助でもすぐ馴染めて、愛称で呼べるほどの仲になった。
明るくて、元気で、ちょっとバカで、でも優しくて、笑顔が綺麗に輝いていて。
そんな竹谷に、兵助はだんだん惹かれていった。
しかし、出会って1年以上経つが、想いは兵助の心の内に秘めたままでなかなか外に出せないでいた。
いつかは言わなければと思ってはいるけれど、同性であることや竹谷に嫌われるのではという不安などが兵助の勇気を胸の底に抑えつけている。
だから言えない。言ってしまいたい。言えない。
兵助はそんなもどかしい思いを抱え込んでいた。
店の中のマフラーを見ながら、兵助は竹谷のことを考えていた。
「(似合いそうだな…)」
兵助は店のガラスの壁に片手をピタリとつけながらマフラーをじっと見た。
「(もし、あれをはっちゃんにあげたら、はっちゃん喜んでくれるかな)」
クリスマス当日、兵助と竹谷は2人で竹谷の住むアパートで過ごすことになっている。
竹谷にも恋人がいないので、寂しいから家においで、と兵助が竹谷に言われたのがきっかけだった。
兵助の友人の鉢屋には不破雷蔵という恋人がいて、彼らはおそらくクリスマスにはデートをするだろうし、もう一人の友人尾浜勘右衛門はいい小遣い稼ぎのチャンスだと言っておもちゃ屋さんのアルバイトを入れていた。
だからクリスマスの日、兵助は竹谷と2人きりになる。そのときにこのマフラーを竹谷にプレゼントしたら、と兵助は考えたのだった。
「(でも、男が男にプレゼントをあげて、変だって思われたら…)」
ネガティブな思考ばかりが、兵助の頭の中で渦巻く。
けれどあのマフラーを竹谷に贈りたい、という気持ちも兵助の中に確かにあって。
「(…もらって迷惑になるようなものじゃないから、いいよね…?)」
結局プレゼントしてみたい気持ちが勝って、兵助はマフラーを買うことにした。
店員さんに綺麗にクリスマス用のラッピングをされたそれを抱えると、恥ずかしいような楽しいような、喜んでくれたらいいなという気持ちで兵助の胸はいっぱいになった。
「いらっしゃいませ〜。あんま綺麗じゃないけど、まあ自分家と思ってくつろいで」
「ありがとう、おじゃまします」
クリスマス当日。夜に竹谷の住むアパートを訪ねた兵助は、竹谷に促されて竹谷の部屋に入った。
兵助は何度か竹谷の部屋を訪れたことはあった。学生らしいワンルームで、築年数はちょっと多いけれどぼろいわけでもなく、シンプルで広い、いい部屋だ。
こたつテーブル、クッション、ベッド、棚など、決しておしゃれな家具ではないがこの部屋に合う家具たちが綺麗に置かれている。
先ほど竹谷は兵助に綺麗ではないと言ったけれど、一応はきちんと掃除してくれたのだろう。
兵助は部屋の真ん中に置かれているこたつテーブルに座った。
「今鍋持っていくから、もうちょい待っててなー」
竹谷がキッチンから顔を覗かせながら言った。
確かにテーブルの真ん中には鍋敷きがひっそり置いてあった。その鍋敷きを囲むように、おにぎりやマカロニサラダ、春巻きが並べられている。
一見がさつそうな竹谷ではあるが、料理が得意なのだ。お洒落な料理ではないけど、家庭的で温かい料理をよく作る。
「ありがとう。俺、何か手伝えることあるかな?ジュースは買ってきたんだけど」
「マジ?サンキュー。じゃあ悪いけどコップ出してくれるかな?食器棚に入ってるやつなら使っていいから」
「分かった」
そうして2人で準備して、竹谷お手製の鍋も用意もできた。
竹谷が鍋を慎重に運んでテーブルに置き、兵助が買ってきたジュースをコップに注ぎ、2人がこたつに入ってようやく食事が始まる。
「メリークリスマスって言っていいのかなあ。俺みたいなやつと一緒でごめんなあ兵助」
困ったように笑いながら竹谷が言った。
「そんなことないよ。どうせ1人だったし、誘ってくれて嬉しかった」
兵助が笑いながら答えた。そして心でひっそり思う。
「(だってはっちゃんと一緒っていうことが一番嬉しいよ)」
このことを口に出して竹谷に伝えることができたらどんなにいいだろう、と兵助は考えていた。 「そうか?ならよかった。じゃあ食べようぜ。クリスマスっぽくないものばっかだけど」
「ううん、どれもめちゃくちゃうまそうだよ。はっちゃん料理うまいからなあ。いただきまーす」
「うまくはねえよ、よく作るってだけでさ。いただきまーす」
それから2人は食事を楽しんだ。
竹谷の作る料理はやっぱりおいしくてどこかほっこりするもので、噛めば噛むほど心に沁みわたる味だった。
兵助はそんな竹谷の料理が食べられることを誇りに思いつつ箸を勧めた。
友人の三郎とその恋人の話で盛り上がったり、バイト中の尾浜に励ましのメールを送ったりと、騒がしく食事のひとときは流れていった。
しかし騒がしく楽しいひとときだからこそ、時間は早く過ぎてしまうものである。
兵助が時計にチラリと目をやると、既に22時を過ぎていた。
「あ、ごめんはっちゃん。こんなに長居してしまって…」
「俺は全然構わないよ。なあ、明日何も予定なければ泊まっていけば?」
「えっ…」
竹谷のその言葉に、兵助は驚いた。
これまで幾度か竹谷の部屋に遊びに来たことがある兵助だったが、泊まるのは初めてのことだった。
「(泊まっていいなら泊まりたいけど…はっちゃん迷惑じゃないかな。っていうか俺の気持ち抑えていられるかな…?)」
不意に竹谷が笑いかけてくるだけでも兵助は赤面してしまうので、それを抑えられるかどうか兵助は心配なのだ。
兵助は、竹谷がすきだからこそ不安に揺らぐ気持ちをどうすることもできない。
一歩が踏み出せない。恋は人を臆病にする。
「兵助?」
竹谷に声をかけられて兵助ははっとした。
「あ、うん、その…用事はないけれど…」
「そう?じゃあ泊まっていったらいいよ」
何でもなさそうに言う竹谷に、兵助は戸惑う。
「…はっちゃん、迷惑じゃない?」
「何で?俺、兵助が泊まってくれた方が嬉しいな」
竹谷がにっこり笑いながら言った。その言葉に、兵助は思わず顔を熱くしてしまった。
やはり気持ちというものは抑えることのできないものらしい。
しかし兵助が先ほどまで抱えていた不安は、竹谷の笑顔に包まれ消えてしまった。
「ありがとう、じゃあ、泊まらせてもらおうかな」
「うん、そうして」
それから2人は食事の後片付けをした。
2人で並んでキッチンに立ち、竹谷が食器を磨きすすいで、兵助がそれをふきんで拭く。
特に何かを話題にして話はしていないが、穏やかな空気が2人を包んでいた。
だが急に竹谷が口を開いた。
「俺さ、今すっげえこと考えてるんだけど、聞いてくれるか?」
目線は食器を洗う自分の手にやったまま竹谷が言う。
兵助は少し驚いて竹谷を見て、竹谷が真剣な表情をしているのを見てまた食器を拭く作業に戻った。
「うん、聞くよ」
「…今さ。こうして兵助と飯食って、食器洗ってて。何でもないようなことなんだけど、それでも何だか楽しいんだ」
ゆっくり、ひとつずつ紡ぎ出すように言葉を出す竹谷。
「うん、俺も、はっちゃんといると楽しいよ」
兵助もそれに答えるようにはっきりと、心の底からの思いで返事する。
「でさ、こんなことをさ、何日でも、何カ月でも、何年でも、ずっとずっと、兵助とずっと一緒にやっていきたいって、今考えてたんだ」
竹谷のその言葉に兵助は思い切り驚いて、声にならない息をのんだ。拭いていた皿をゆっくり台に置いて、ふきんもその上に乗せて、兵助は竹谷に向き直った。
竹谷も流しで一回手を洗って、タオルで手を拭き兵助を向いた。
2人の視線が合わさる。
「食事も、皿洗いも、掃除だって散歩だって何だって、兵助とずっと一緒にやりたいって思ってる。俺…すきなんだ、お前のことが。頭良くて顔も綺麗で優しくて、ちょっと天然だけどでもそんなとこもすきなんだ。だから俺は、この先もずっと兵助と一緒に居たい。何でもないようなこと、毎日だって兵助と一緒にやっていきたい。兵助…俺と付き合ってください」
兵助は一瞬何も考えることができなかった。それだけ竹谷の言葉が信じられなかったのだ。
ずっとずっと、兵助は1人で竹谷への想いを抱え込んでいた。
いつでも打ち明けたかった。でも嫌われることが怖くて打ち明けられなかった。
竹谷が自分をすきになってくれたら、と願うこともあったが、そんな願いは叶わないと思っていた。
すきなのに、踏み出せない。
ずっとずっと、兵助は臆病だった。
でも今はどうだろう。竹谷が兵助をすきと言う。
兵助は信じられなくて、でも竹谷の目は真剣で、竹谷が本気なのだと知ったら嬉しくて嬉しくて。
あまりの衝撃に零れそうになる涙を必死で押さえて、兵助はやっと声を出した。
「ちょっと待ってて!」
兵助は急いで部屋の片隅に置かれていた自分のバッグの元へ行き、中からあるものを取り出し、また竹谷の元へ戻った。
「兵助…?」
「はっちゃん…。これ、これが俺の答え…」
兵助は持っていたものを竹谷に渡した。
クリスマスの1週間前、兵助が買ったプレゼントだった。
「もらっていいのか?」
「うん、開けていいよ」
竹谷は兵助の意図するところが分からなかったが、とにかくプレゼントを開けてみた。
「あ…マフラー!すっげーあったかそう!俺マフラー持ってなくてさー、ありがとう兵助!」
緑と黒のボーダーのマフラーを抱えながら、竹谷は心底嬉しそうに言った。
「どういたしまして。…それね、はっちゃんのために買ったんだよ」
「え…?」
「街でそれ見かけて、はっちゃんに似合いそうだなって思って、はっちゃん喜んでくれたらいいなって、はっちゃんが温まりますようにって…マフラー見かけるだけで、それだけはっちゃんのこと考えちゃうんだよ、俺は。それだけ…はっちゃんのことすきなんだよ」
竹谷の目をまっすぐ見つめながら、兵助はありったけの想いを込めて告げた。
兵助は言い終えた瞬間、長い長い苦しみから解放されたような気分を味わった。
「兵助…ほんとに…?」
「うん、ほんとだよはっちゃん」
「兵助…兵助!」
「うわっ!」
いきなり竹谷が兵助に抱きついた。
「俺、ずっと兵助がすきで、でも兵助は俺なんかに惚れないって思ってて、でも俺の気持ち知って欲しくて、クリスマス来てくれるって言うから伝えようって…!」
「はっちゃん…」
兵助の存在を確かめるように、竹谷は兵助を思い切り抱き締めた。
結局は竹谷も兵助と同じ気持ちだったということだ。
2人とも同じ気持ちと同じ不安を抱えながら今日まで臆病者のまま過ごしていたのだ。
でも2人はそれを馬鹿なことだと思っていない。そんなことを考える余裕もないくらい、今は嬉しくて幸せで、素敵なクリスマスの夜なのだから。
お風呂にも入って、竹谷は自分のベッド、兵助はテーブルをどけて敷いた客用の布団にそれぞれ寝転がりながらぽつぽつと話をする。
「三郎に言ったら何て言うかなあ」
竹谷が天井を見ながら言った。
「なんかあいつ馬鹿にしそう。『お前ら趣味悪いな』とか言う!」
兵助も天井を見上げて言った。
「うわー言いそう。趣味悪くねえし。兵助超自慢の恋人だし!」
「あ、そっか、恋人なのかぁ…恋人かぁ…嬉しいなあ」
「俺も嬉しい。なあ、勘ちゃんにも言う?」
「言わなくてもいずれバレるんじゃないかなあ」
普段はぼーっとしていることもある尾浜だが案外勘は働く。そんな友人を2人は思い出していた。
「そうだな。勘ちゃんも頭いいもんな」
「たまにボケてるけどね」
兵助の言葉に2人でクスクス笑った。
静かに、でも楽しく、クリスマスの夜は更けていく。
今日がとてつもなく幸せなことに包まれた2人には、なおさらクリスマスは特別で神聖なものとなった。
「兵助、来年もクリスマス一緒に祝おうな」
「うん。1周年記念、ってやつもね」
そして2人でまた笑った。2人は本当に幸せに包まれている。
恋人同士となった今、その幸せは永遠に続く。
Merry Christmas and A Happy New Year!!
END.
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2010クリスマス記念。
笹豆腐虫の学パロでした!
彼らは今大学2年生です。分かりにくくてすいません><
学パロでもイチャイチャさせたいですね笹豆腐虫は!
ハッピークリスマス!