七夕
いつもは薬草を採るために入る裏山だが、僕は今日は薬草を採るためではなく、違う目的でここに来た。
裏山に生えている笹竹を取りに来たのだ。
僕らが通う忍術学園は忍者の学校だけど、まだまだ子供な人も多くいる。
だからこういった季節の行事はきちんと行って、楽しみながら風習や言い伝えなどを教えるのだ。
そして今日は七夕。盛大にやろうとのことで、みんなで短冊や笹に飾る飾り物を用意する。
みんなと言っても、その準備は保健委員会の上級生だけが行っているのだけれども。
季節の行事を行うときの約束で、決められた委員会が決められた行事の仕事をする。
これも学園長の思いつきなんだけど、ね。
でも、みんなを驚かすほどすごい行事にしようと、みんな結構張り切るからおもしろい。
みんなに自分たちが用意した行事を楽しんでもらえれば自分の委員会の評価も上がるというものだ。
だから僕も、保健委員会の委員長として頑張らなければならない。
「どの笹竹がいいかな…結構人いるし、なるべく大きいものがいいよね」
僕は6年生だから、一番大変な仕事である笹竹運びを引き受けた。
裏山の笹竹林から竹を切って運ぶのだ。
きつそうだけど、僕より年下の子に頼むわけにもいかないので僕が引き受けた。
まあ…僕は不運だから、何が起こるか分かったものじゃないけれど。
適当な笹竹を見た目で選ぶ。
短冊や飾り物を付けるのだから、枝がたくさんあるものでなくてはならない。
笹の葉がたくさんある方がみんなも喜ぶだろう。
そして大きいものでなくては。
僕は考えながら探した挙句に、条件に見合うような笹竹をついに見つけた。
大きくて枝がいっぱいあって、葉もたくさん付いている立派な笹竹だった。
「これでいいかな。えっと、ここら辺を切って…」
僕は用具委員会顧問の吉野先生に教わった通りに笹竹を切り始めた。
長い時間を掛けて笹竹を切った。
切った瞬間に笹竹が僕の方に倒れてきて、笹竹と僕の頭がぶつかったけど。
でも、何とか笹竹は得られた。あとはこれを運ぶだけだ。
そして、はた、と気がつく。
「………これ、どうやって運べばいいんだろう…」
僕は笹竹を切ることにだけに一生懸命になっていて、運ぶことはあんまり考えていなかったのだ。
さああ、と血の気が引いていくような感じがした。
僕は荷車なんて持ってきていない。縄も持ってきていない。
「…ど、どうしよう…!」
一旦ここを離れて誰かを呼んで来ようか?いや、そんなことをしていたら時間がなくなってしまう。
もう昼過ぎも過ぎたような時間だ。
七夕祭り…祭りというほどのものでもないけど、全生徒参加のそれは夕方には始まる。
それまでに笹竹を持って帰らないといけなかった。
でも運べない。ためしに持ってみたけれど、重くて歩けない。
僕にもう少し力があればよかったのだが、今さらそんなことを嘆いていても仕方がない。
さて、どうしたものか…。
「おい」
「うわああっ!!!」
び、びっくりしたー…!
僕がいろいろと悩んでいるときに、まさかいきなり声をかけられるなんて思いもしなかったから…。
「……忍者が不意を突かれたくらいで大声を上げるなバカタレ」
ゆっくりと後ろを見ると、声色で予想していた通り、文次郎が立っていた。
「だって…びっくりしたから」
「忍者たるものいついかなるときでも動揺しないように心掛けておくべきだ」
学園一忍者している男は相も変わらず僕に説教する。
「ごめん…ねえ、どうしてこんなところにいるの?」
「修行してたに決まってるだろ。修行してたときにでっかい音が聞こえたから何事かと思えば…これか」
文次郎は笹竹を見ながら言った。でっかい音はたぶん、さっき笹竹が倒れた音だろう。
「あ、邪魔しちゃったかな…ごめんね」
「まあ、そろそろ帰るつもりだったからいいが」
文次郎のこういう性格はいいと思う。
終わったことを説教しても、ぐだぐだと後まで怒らない。僕が好きな、彼の魅力のひとつだ。
「あ、そーだ!」
文次郎が嫌そうな顔で僕を見る。たぶん言われそうなことが予測できたのだろう。それでも僕は言う。
「もんじ、これ運ぶの手伝って!」
笹竹をびっと指さしながら僕は言った。途端に文次郎はため息をついた。
「どーせ運ぶものがぶっ壊れたとか忘れてきたとかそんなんだろ…」
うん、大当たり。
やっぱり修行が終わった後にきついこと頼んじゃったかなーと僕が後悔し始めたとき。
「ほら、早くそっち持てよ。さすがに俺一人でも無理だ」
文次郎が笹竹を腕に抱えた。僕も慌てて笹竹を抱え込んだ。
文次郎と笹竹を運び、お礼を言って別れて僕は七夕の準備にいそしんだ。
そうしていくうちに夕方になった。
今日は食堂のおばちゃんが外に食事を出してくれていて、みんな食べたり飲んだりしながら星を見て、はしゃいでいる。
笹竹も喜んでもらえた。
下級生が口々に大きい大きいと言っているのが微笑ましく、そして嬉しかった。
笹竹を見ると、短冊がたくさん飾られてあった。
願い事も様々で、「立派な忍者になりたい」という真っ当な願いもあれば「金が欲しい」などの真面目とは言えない願いもあった。
僕も何か願い事をしたくなった。
こんな星が綺麗な夜にくらい、夢を見たっていいよね。
笹竹の横に置いてある机の上の短冊を一枚手に取って考え込む。
さて、何をお願いしようか。
不運がなおりますように…は、笑われるに違いないだろうからやめておこう。
立派な忍者になりたいとは思うけれどそれは日頃から願っていることなので、今日はもっと違うことを願ってみたい。
僕の、願い事。
思い浮かんだのはとある人だった。
「…やっぱり、僕はバカタレなんだなあ」
願い事を書いて、僕は短冊を笹竹に吊るした。誰にも見えないようなところに、そっと。
「おい」
「うわああっ!!!」
びっくりしたーって、今日2回目だよね、こんな感じ…。
「注意したその日に同じこと繰り返すなバカタレ!」
文次郎が僕を叱る。僕はごめんなさいと素直に謝った。
「あ、ねえ、もんじも短冊書きに来たの?」
「誰がんなことするか」
ものすごく文次郎らしい返事をありがとう。
「じゃあ、どうしたの?みんなの願い事でも見に来たの?」
僕は隣に立つ文次郎の顔を見上げながら言った。
「いや…みんなっていうか…お前が、短冊書いてたから何書いたのかなー…って…」
文次郎はもごもごと言った。
「僕の願い事、気にしてくれるんだ?」
「そんなんじゃねーよっ!」
口では否定する文次郎だけど、顔が赤いよ。
「…見てもいいけど、笑わない?」
「どーせ『不運がなおりますように』とか書いてんだろ」
まあ、そう書こうとはしたけれど、でも書いたことは全然違うよ。
僕は苦笑しながら僕が書いた短冊を文次郎に見せた。
ちょっと恥ずかしかったから、照れ笑いになったかもしれない。
でも僕は文次郎に僕の願い事を見せた。
君のために願ったんだから、見て僕の願いを胸に留めておいて欲しかった。
僕の短冊を見た文次郎はさっきよりも顔を赤らめて、それを隠すように下を向いた。
「い、伊作…これ…」
「やっぱ笑っちゃうかな?」
「いやそんなことはない!…けど、お前、これがお前の願いでいいのか?その…俺がいつまでも幸せでいられるようにって…」
「うん。僕は、もんじがずっと幸せでいて欲しいから、そう願ったまでのことだよ」
僕は心の内をあるままに話した。
だってすきな人が幸せなことはいいことでしょう?
僕は僕の願いよりも、文次郎の願いが叶って欲しかったんだ。
「ありがとう」
文次郎が、今ありがとうと言った。僕に向けて。
僕は驚いて何も言えなかったけど、文次郎は続けた。
「俺も、短冊書く」
「え、どうして?」
「伊作が、俺の幸せを願ってくれたなら、俺もお前の幸せを願ってやるよ」
僕は顔が熱くなるのを感じた。きっと真っ赤になったんだ。
文次郎がこんなに嬉しいことを言ってくれたから。
「…ありがとう、もんじ」
僕がお礼を言うと、もんじは今さらになって恥ずかしくなったのか、また顔を背けてしまった。
「でも、僕を幸せにしてくれるのは、君だよね?」
僕がおずおずと尋ねると、文次郎は恥ずかしそうに、でもちゃんとおう、と返事をしてくれた。
星は何千何万と輝いている。
あれらが僕らの願いを見てくれるのだ。
どんなちっぽけな願いでも、空に届いている。きっと願いは叶う。
そう、君が幸せになることも。僕が幸せになることも。
END.
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べたべたですな(笑)
もんじが甘いって?気のせいじゃないから安心して!(←?
わたくしはみんなの幸せを願っております。
みんながらぶらぶになりますようにってね!邪な願いでごめんなさい!