君を想っている。
よからぬことを聞いた。
タソガレドキ軍の忍び組頭が、よからぬ空気を漂わせているらしい。
そしてそのよからぬ空気が、俺にとって何とも都合の悪いやつに流れているらしい。
タソガレドキ軍の忍び組頭は、伊作に想いを寄せているらしい。
一年ボウズがウワサしているのを仙蔵が聞いて、それが俺の耳に入ってきたわけだ。
俺だって保健室にタソガレドキの忍者が忍び込んで、伊作がそれを撃退(ではないが)したことは知っている。
でも、それは伊作の“人徳”によるとこだと聞かされていたため、まさか、そんな、伊作が惚れられただなんて知らなかった。
いつか、こうなる日が来るとは思っていた。
伊作は忍者になるには優しすぎる。
怪我や病気をした者は絶対に放っておけないのだ。
だから、伊作の優しさに触れたやつが、いつか伊作に惚れこんでしまうのではないかと俺は常にヒヤヒヤしている。
現に自分が、そんな伊作に惹かれたから。
伊作に惚れこむやつの気持ちは、十分に分かるから。
しかしだからといって伊作を他人に渡すなどと、そんなことは絶対にしない。
伊作は俺のモンだ。誰かに譲る気などさらさらない。
もちろん、タソガレドキの忍び組頭にも、だ。
「ぜーったいいさっくんに惚れてるってそいつ!」
そんな俺の心境なんてお構いなしに、まったく空気の読めない小平太が伊作に向かって言った。
「伊作はモテモテだなあ」
仙蔵は絶対におもしろがっている。
「……がんばれ」
長次は何をどうしたいのかが分からない。
「そんなの認めない!絶対に認めない!」
用具委員長は相変わらずお父さんしてる。
とまあ、仲間内の反応はこんなものだった。伊作は困ったように笑ってた。
危機感のないやつめ。
それからみんなニヤニヤしながら俺の発言を待っている。鬼かお前らは。
「……不運めが」
俺がぼそっと言ったら伊作に殴られた。結構痛い。
「空気の読めないやつだな!」
小平太にだけは言われたくない。
別に、伊作があっちに心を動かすだなんて思っちゃいない。
惚れたやつを信じてあげられないやつは男じゃねえ。
けど、相手は忍者だ。いつ忍び込まれて、伊作が連れ去られたりとか、もしくはその場であんなことやこんなことをされるか分からない。
そしてこういうときに限って、伊作は今日は保健委員の遅番だ。
怪我人や病人はいつ現れるか分からない。
かといって新野先生だけに任せるのはあまりにも酷なので、保健委員がこうやって遅番をするときがあるのだ。
伊作は一応六年生だし、不運だが忍術がそれほど下手というわけではない。
けれど相手はプロだ。相手に一本取られることだってあり得る。
もし、伊作が襲われたら。
それを考えたらいても立ってもいられなくなった。
「あれ?どうしたの?また怪我したの?」
無言のままに保健室の扉を開けたら伊作が俺を出迎えた。
「いや、怪我じゃないが…」
そういえば、どうやって理由をつけてここに居座ろうか。
慌てて来たので考えもしなかった。
「じゃあ、僕に何か用?」
伊作が、自分よりも背の高い俺の顔をじっと見る。
俺は居心地が悪くなって、ふいと顔をそらした。
「用っていうか…」
俺はもごもごしつつ何とか理由を考えてみるが、いい理由が何も思い浮かばない。
そのまま俺が何も言えないでいると、伊作がふっと笑った。
「何だよもんじ。用がないけど来た、て素直に言えばいいじゃない。僕もちょうど退屈していたところだし、入ってよ」
そう言って、伊作は俺を中に入れた。
他の誰かがいるときは俺を追い出そうとするくせに、二人きりのときは自ら俺を招き入れる。
照れ屋なのか、ただの恥ずかしがりか。
俺との関係を他人に知られたくないのかもしれないが、ものすごくばれてるぞ。
伊作は俺に茶を出して、俺の目の前に座った。
「あのね、みんながおかしなことを言うんだ。仙蔵たちだけじゃなく、下級生たちも」
「何だ」
俺は予想はすぐについたが、とりあえず尋ねてみた。
「タソガレドキの、忍びのお頭いたじゃない。あいつが、僕に惚れてるってさ」
ああ、やっぱり。
ということは、誰の目にも分かるほど、あいつは伊作にゾッコン(死語)なのか?
「そんなわけないと思わない?ねえ?」
だって僕男だし、と伊作はけらけら笑っている。
いや確かにお前は男だけど、それでもこんな男ばかりの世界じゃお前に惚れこむやつも少なくないのでは。
「…だが、実際向こうがお前に惚れていたら、どうする?」
伊作は、目を見開いた。
かっこ悪いと思った。伊作の答えを聞いて、俺はどうする気なのだ。
伊作があいつに想いを注ぐなどと思ってはいない。
でも、なぜ自分はそんなことを伊作に訊いた?
ただ単に、俺が不安なだけか。
ああかっこ悪い。学園一忍者してる男が、こんな女々しいことを。
こんな風になるのは伊作の前だけだ。
伊作のことになると、俺は本当にかっこ悪くなるんだ。
「別に、どうもしないよ」
伊作が言った。
「どうもしないよ。あいつが誰を好きになろうと、たとえ僕がその標的になろうと、どうもしない」
伊作は真っ直ぐに俺を見ながら言う。
「僕は、ただ僕がすきなやつだけを想うんだよ。僕は、」
伊作が俺の手に、自分の手を重ねてきた。
「君だけを、想っているから」
「……そうかよ」
俺はふっとうつむいた。
顔が上げられない。上げちゃいけない。きっと今の俺の顔は真っ赤で、締まりがないだろう。
嬉しいと、ありがとうと、言わなければと思うのに言えない。
伊作は不審がっているに違いない。
それでも、顔は熱くなるばかりで、胸は高鳴るばかりで、どうしようもない。
そうしていると、頭上から伊作のくすくす笑う声が聞こえてくる。
怒鳴ってやりたいが、今日はできそうにないし、何より、嬉しかったから、怒らないでおこう。
どんなに俺がかっこ悪くたって、伊作は絶対に、俺が守ってやるから。
END.
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さあみんなで砂糖を吐きましょう^q^
ただいま文伊←雑ブームですきゃっほーい!お頭かわいいよお頭
もんじもね、結構ヘタレだと思うの。
伊作の方が恋愛に関しては上手だったり。