初めて君を知った日
※今の2人の7年くらい前のお話です。
青空に白い雲が綺麗に映えている、そんな午後3時のこと。
夕方になる少し手前、太陽がまだ輝いている時間だ。
僕はゲンガーをボールから出して一緒に外へ出た。
夕方になってしまう前のひんやりした空気が気持ちいい。
日頃家の中に閉じこもりがちな僕はこうして3日に1度くらい自分のポケモンと散歩に行く。今日はゲンガーと。
ずっと家の中にいたのでは健康に悪いなんて、僕でもよく知ってる。
僕はジムリーダーだ、己の不摂生のために病気になってジムを閉めることなんて絶対にできない。
だからこうして、せめて夜に近いしかし太陽が照るこの時間に散歩をするのだ。
エンジュから少し歩くと、分かれ道に出る。
右に行くと自然公園がある。左に行くとキキョウシティがある。
僕はいつもは自然公園に行ってポケモンを遊ばせてからコガネで買い物をして帰っている。
しかし今日はなんとなく、本当になんとなく、違う場所に行ってみたくなった。
自然公園へ行ってしまえばあと行く場所はコガネシティだけ。それじゃいつもと同じ。
エンジュに戻ってアサギ側やチョウジ側に行ってもいいけど今から戻るのは面倒だ。
ならば行く先はただひとつ。
「今日は、こっちに行ってみようか」
僕はゲンガーに視線を合わせて言った。ゲンガーは不思議そうにしたけどすぐ嬉しそうな声を上げてくれた。
「じゃあ決まりだ」
いつもと違う道に踏み込むのは何だか楽しい。冒険みたいで。
キキョウに最後に行ったのはいつだったか。何年も行ってないのではないか。
何か変わっているだろうか。何も変わっていないだろうか。
期待に胸を躍らせながら僕らは歩いた。
キキョウはエンジュに似ている。塔があるし、街並みが古都っぽいし。
僕が最後にここに来た日はついに思い出せなかったけど、ああこんな街だったなと思いだせた。
塔まで行ってみようと思い、また1人と1匹でのんびりと歩きだした。
周りの街並みを見ながら行くと、塔にはすぐに着いてしまった。
僕の所にある塔よりは低いけれど、とても立派な塔だ。
ゲンガーも塔のてっぺんを見上げていた。この子は一体何を思っているのかな。
冷えた風が吹いて、木の葉を巻き込み塔まで流れていく。綺麗な景色だ。
僕がその景色に見とれていると、ゲンガーが急にそわそわし始めた。
「どうしたの」
僕はゲンガーに尋ねた。ゲンガーは塔の向こう側の森をじっと見つめている。
そこに何かがあるのだろうか。もしくはポケモンでもいるのか。
森から何か出てくるんじゃないかと思い、僕は目をこらした。千里眼なんて今は使わない。
しばらくそうしていたけど、突然森がざわつき始めた。
木が揺れる音、何かのポケモンの鳴き声、葉が擦れる音…。それらは天に向かって鳴っている。
森の中で、地面から空に向かって何かが飛んでいるのか、そんな感じだ。
そしてざあっと大きい音が森の木々のてっぺんでしたかと思うと、森の上空に何かが現れた。アレは何だ。
ゲンガーが威嚇するように鳴く。けどこんな所からじゃあアレには届かないよ。
アレは太陽の逆光でよく見えないけど、ばさっとひとつ羽ばたいたから鳥だろうと予想できた。
そのおそらくは鳥であろうものがこちら目がけて飛んでくる。
僕たちを敵と思って狙っているのだろうか。風が強く吹き付けてくる。
不意にゲンガーが僕の前に飛び出した。僕を守ろうとしてくれているのかな。
けれど、アレは僕らの目の前まで来てそこで止まった。その姿がはっきり見える。
アレはピジョットだった。久々に見たな、ピジョット。
しかしそれだけじゃなかった。ピジョットだけじゃない。もう1匹、いやもう1人いた。ピジョットの背中に。
ピジョットの背中からその人が降りた。
青い髪を揺らせながらこちらを見たその人は、僕よりずっと幼く見えた。
髪と同じ青い袴を着たその人は、じいっと僕を見てから口を開いた。
「すいません」
「え?」
僕は突然謝られたものだからびっくりした。
「驚かせてしまったと思いまして。あそこで、バトルの修行してて、帰ろうと思って、それで…」
ああ、帰ろうとしてピジョットに乗って空に上がったら、唖然としてそちらを見る僕らがいたわけか。
「いいよ。驚いたけど、気にしてないから。ね、ゲンガー」
ゲンガーに訊くと、にこやかに鳴いてくれた。
「ありがとうございます」
その人は微笑みながら言った。なんて行儀のいい少年なんだろう。
「あなた、もしかしてマツバさんですか」
少年が僕に尋ねた。まったくもってその通りだから僕は驚いた。
「うん、そうだけど…どうして知っているの?」
まさか君も千里眼を…そんなわけないか。
ちょっと顔を俯かせながら、でもときたま僕の方に視線を向けて少年は言った。
「父さんに聞きました。マツバというジムリーダーは金髪の若者で、ゲンガー持ってるって」
「君はたったそれだけのことでそんなやつをマツバと決めつけるのかい?」
「違ったら、それはそれでいいです」
割とあっさりした性格のようだ、この子は。
でも嫌いじゃない。むしろ好印象。僕が見知らぬ人を好ましく思うなんて、ねえ。
「ねえ、名前教えて。君は誰?」
今日の僕はどうかしている。見知らぬ人に名前を訊いた。こんなこと今までなかった。
いや、『見知らぬ』ではないか、もう。少年の姿を覚えてしまった。見知った。やっぱり今日の僕は変だ。
「教えません」
少年は柔らかく笑いながらもそう言った。
「君は僕の名前を知っているのに僕は君の名前を知れないなんて不公平じゃないかい?」
僕は少し笑いながら言った。
「不公平、と言うのなら、今の立場だって不公平です。あなたはジムリーダー、俺はただの子供。子供な俺の名前なんて、あなたに教えられるようなものじゃない。だから、俺がジムリーダーになったら真っ先にあなたに教えに行きます。ジムリーダーになるの、俺の夢なんです。」
少年はそう言ってピジョットの背中に乗った。
「今日、あなたに会えたこと忘れません。父が待っているので俺はもう帰ります」
そして少年はピジョットが空へ飛び立つ瞬間に、また会いましょう、と言った。
僕は彼の姿をずっと眺めていた。
そう遠くない未来に、彼に会えることを夢見て。
ジムへの訪問者の存在をジムトレーナーが僕に伝えてくれた。
挑戦者ではないと言う。
じゃあ誰だ、ミナキ君かな。
そういえば最近どこかの町に新しいジムリーダーが就任したって言ってたっけ。
まさか、まさか…。はやる気持ちを止められず、僕は扉を開いた。
僕の目前にあったのは、青い頭…いや、髪だ。
青空の色をした、風に吹かれる綺麗な髪。
目線を下げるとそこにはあのときから成長して男らしくなった顔。
彼は僕の姿を認めて、大きな目をまっすぐ僕に向けながら至極真面目に言った。
「こんにちは、マツバさん。今度新しくキキョウのジムリーダーに就任したハヤトです。どうぞよろしくお願いします。」
ハヤト。なんて彼に似合うかっこいい名前なんだろう。
END.
-----------------------------------------------------------------------------
マツハヤ出会い話。
何だかさらっとした出会い。
けど今は礼儀正しいハヤトもマツバの変態さの露見のためにバイオレンスになってくよ!
マツハヤの目標は相互依存!