2人で。









お頭からの命令で、俺と網問は忍術学園へ魚を届けに行った。
しかし俺が陸酔いしてしまうために、休み休み山を登って忍術学園まで行ってきた。
俺の陸酔いは蜘蛛兄や蜉蝣の兄貴とは違ってそこまでひどくない。
短時間陸にただいるだけなら酔ったりはしない。ただ、長時間陸にいると酔ってしまうのだ。
ひ弱だと笑われるだろうが、海の男である俺からすれば陸酔いは誇らしい病気だ。
それだけ海に近付いているということなんだから。
実は、俺と一緒に忍術学園に行った網問も陸酔いにあこがれていて、俺にどうやったらなれるのか頻繁に尋ねてくる。
そんなこと訊かれても困るといつも言っているが、あいつは何回でも俺に尋ねる。
それだけあいつは頑固で好奇心旺盛な子供ってことだ。
そんなあいつと一緒に行動することは多かった。
歳も近いし、役職も同じだから必然的にそうなっていた。
だからかもしれないが、俺も網問もいつからか互いに惹かれあい、今では付き合っている。
あんまりコイビトらしいこともしてやれてないけど。







「マギ兄ー疲れたー」
忍術学園からの帰り道である森の中で、網問が俺にそう言ってきた。
でも俺はさっき述べたような理由で休みまくってるし、陸酔いする俺だって疲れてなんかいない。
網問は若いし体力だって充分あるはずなのに、なぜ疲れたとか言うのだろう。
「さっき休憩しただろ。もうすぐ帰れるから我慢しろ」
俺はそう網問に言い聞かせた。しかし。
「我慢できないーねーマギ兄ー」
網問は俺の言うことを聞かない。
我慢しろ、とかもうすぐだから、とか言ってみても全く効果がない。
「我慢できるだろ、ただでさえ休み休みなんだから、急がないとお頭やみんなに怒られるぜ」
「…マギ兄、海行きたい」
俺は歩みを止めた。
さっきまでは疲れたとばかり言っていた口が、別なことを言い始めた。
しかも、海に行きたい、と。
「……なら話は早いな。帰れば海が目の前にある。よし早く帰ろう」
海に行きたいと言うのなら好都合だ。早く帰る言い訳がまたひとつできた。
海に行きたいなら、網問も早く帰りたいと思うはずだ。いや、思っているはずだ。
「違う、違うよ。いつもの海じゃなくて、別の海に行きたいの」
網問が俺の袖を引っ張りながら言う。
「別の海って…俺たちの領内じゃない海にか?」
「そんなに遠くじゃなくていいんだ。いつもの入り江ばっかりじゃなくて、たまには別なところに行きたい」
網問は余裕のあるような笑みを浮かべながら俺にねだる。
「だったら今度暇なときに行け」
俺は至極めんどくさそうに言ってやった。
でも網問も負けてはいない。
「今がいいの今!ねえちょっとだけ行こうよー」
今度は網問はすねたような顔をしながらねだってきた。
駄目だ。ラチが明かない。
確か、この森を少し右にそれて抜けた先に砂浜があったはずだ。
そこならあんまり遠くないし、少しくらいならそこにいてもいいだろうか。
「…じゃあ、この先にある砂浜に連れて行ってやる。そこで文句はないな?」
「うん!やったー!行こう、行こう!」
俺の言葉に、網問は両手を大げさに振り上げて喜んだ。
何がそんなにうれしかったのだろうか。そんなに笑顔になって。
理由はいまいち分からなかったけれど、網問の笑顔が見れることはいいことだと、俺はぼんやり思った。
俺ははしゃぐ網問の手を握って、砂浜を目指して歩き出した。







「わー、すごい!初めて来たよ!」
砂浜に着くなり、網問は歓声を上げた。
「来たことあるかと思ってた。入り江からも近いし」
てっきり、重にでも連れられて網問もここに来たことがあるかと思ってたけど、実はそうではないようだ。
「こっちじゃなくて、あっちがわの砂浜にならよく行くよ」
網問が入り江のある方の、さらに向こう側を指さしながら言った。
ここよりは広めの砂浜が、そこにあるのだ。
「そっか。あっちの方が広いもんな」
「ねー。でもこっちもキレイだし、今度からはこっちにも来よう」
網問はそう言いながら、波打ち際まで駆けて行って足を海に浸した。
「おい、あんま濡れるなよ。怒られるから」
「だいじょーぶだよ。ここら辺までしか行かないよ」
網問はそれから波打ち際を歩いてみたり、波を蹴ってみたりしていた。
俺はその姿をぼーっと見ていた。
網問がはしゃぐのを見ていると、こっちまで楽しいような気がして、つい笑ってしまう。
そして、どうしてこんなにはしゃいでいるのだろうとも思う。
海ならいつでも見てるし、いつでも遊んでるし、砂浜にもよく行くし。
海の男だから、森に入ると無性に海に入りたくなったりするのかな。
そんなどうでもいいことを思っていたけど、ふと早く帰らないと怒られるということに気づいた。
俺は楽しそうに波の上をばしゃばしゃと歩く網問に帰るぞと大声で言って、網問を海から上がらせた。
網問は名残惜しそうに、でも俺の言う通りに海から上がり、俺のそばに来た。
「もう少し遊びたかったな。マギ兄も入ればよかったのに」
「後で足洗うのだるい。ほら、帰るぞ」
俺はさっき来た道を引き返して、お頭や仲間たちが待つ入り江へと再び向かった。







「ねえマギ兄」
歩いている最中、網問が俺を呼んだ。
「何」
「ねえマギ兄ー」
「だから何だ」
俺を呼ぶことを繰り返す網問の顔を覗きこめば、何やら随分と楽しそうな顔をしていた。
何がそんなに楽しいのだろう。
そう問おうとしたけれど、その前に網問が口を開いた。
「えへへ。今日、俺とマギ兄で砂浜に行ったよね」
網問が満面の笑みを浮かべながら俺に向かって言った。
その笑顔には裏がなくて、本当に心の底からの笑顔だった。
「行ったな。お頭たちには内緒だぞ」
「分かってるって!でもさ、2人で行ったよね」
何を言っているのだろうかこいつは。
確かにさっき2人だけで砂浜に行った。そのことは忘れてなんかいない。
もしかしたら網問には俺がとんでもない忘れん坊に見えているのだろうか。
「あのさ、これってさ、『でーと』だよね!」
しかし網問が俺に言ったことは俺が思っていたこととは違っていた。
「…は?」
「『でーと』だよ『でーと』!」
意味が分からない。そもそも『でーと』って何だ。
「あ…もしかしてマギ兄さ、『でーと』って知らない?」
「知らん」
「何だ…。まあいいや。あのね、『でーと』ってね、好きな人同士が2人きりでお出かけすることなんだって」
好きな人同士。
つまり、俺と網問ってことか…?
「だから、俺とマギ兄で、今日『でーと』したってことだよね」
好きな人同士でお出かけ。うん、した。
だから、それが『でーと』っていうものだと、そういうことか。
あれ、だったら今日網問がはしゃいでた理由とは…。
「…お前、俺と『でーと』っていうのができたことがうれしかったのか…?」
ふと、俺の中に生まれた答えを口に出してみた。
「うん!」
俺の問いに、網問は素直にうなずいた。とびきりの笑顔付きで。
「最近さ、お仕事とかでしか2人で出かけたことなかったじゃん。だから、『でーと』したかった」
確かに、最近は2人きりで出かけるということはなかった。
出かけてもそれは仕事であったり、他の誰かと一緒であったり。
それゆえに今日、網問は俺を束の間の『でーと』に誘いたかったのか。
…なんか、妙にうれしい。
網問が俺と2人きりで出かけたいと思っていたということが、特に。
『でーと』って、なかなかいいものだなと思ってしまう。
できることならば、また行きたい。
今度は俺からも誘ってやろうか。
あんなに網問が喜ぶのであれば、何度でも。
網問の髪をくしゃりと撫でてやれば、網問はまたうれしそうに笑った。







「ところでその『でーと』って言葉はどこで覚えてきたんだ?」
「義兄が言ってた」
「あー…」





END.







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なんか間切さんが間切さんらしからぬ人になってしまいましたが、まぎあとです><
前サイトにてキリバンを獲得されました水島秋帆様に捧げます。
ほのぼのまぎあと。中学生みたいな恋愛が目標です(笑)
でも情熱的な愛のまぎあとも書いてみたい!
キリバンリクエスト、本当にありがとうございました!
※この小説は水島秋帆様のみお持ち帰り可です。