出会いの日
当時まだ子供だった僕はその日、父に連れられてカナズミの街にいたんだ。
夕方までは父は仕事があると言って、僕は付き添いの大人の人と外で遊んでいた。
夕方、約束の時間になったら父の会社の前に行き、そして食事をしに行く予定だった。
日がだんだん傾いてきて、約束の時間が近づいてきたから僕らは父の会社へと向かった。
そのときのこと。
付き添いの人に手を引かれながら街を歩いていた僕は、不意に視界の左端に気になるものを認めて立ち止まってしまった。
僕が止まると付き添うの人も止まってくれた。僕は気になるものがあった方をじっと見た。
すると、建物と建物の間のちょっとした路地みたいな所で、建物の壁に背を預け俯きながら立っている、僕と同い年くらいの子を見つけた。
綺麗な白いシャツに青いズボンを着たその子は、水色の髪が特徴的で綺麗な顔をしていた。
その子が少し寂しそうに見えた僕は、付き添いの人に許可をもらってその子に近づいた。
「こんにちは」
僕が声をかけると、その子は驚いたように慌ててこちらを向いた。
そして小さく頭を下げてくれた。
「君、ひとりなの?こんな所で何しているの?」
初対面に無礼などとは全く思わず、僕は質問を重ねた。子供だったから仕方ないだろう?
「…人を、待っていて…」
「そうなんだ。その人いつ来るの?」
「さあ…お仕事終わるまで、としか言われていないので分かりません…」
この子もお仕事の人を待っているのか。たったそれだけのことなのに僕には親近感が湧いた。
僕は時間が決まっているし、付き添いの人がいるからいいけれどこの子はずっと1人のようだ。
「どうしてここで待つの?お店とか公園に行った方がずっと楽しいし他に人もいるのに」
「ここにいた方が早く会える気がして。それに私…知らない人ばかりの所は苦手なんです」
僕が思ったことを尋ねると、その子はそう言った。
確かに僕とこう喋っているときも俯いてばかりで何だか恥ずかしそうにしている。
「でも寂しくない?」
そう僕が問うと、その子はさらに頭を下げて、少し黙ってから言った。
「…どっちかと言うと、1人の方がいいですから」
嘘だと思った。だってさっき下向いたし、黙ったし。
でも嘘でしょうとは言えなかった。そのくらいの礼義はわきまえていた。
嘘だと分かってしまった僕は、何だかその子を放っておけなくなった。
その子に付き添っててあげたくなったけれど、僕には僕の約束もあった。
一緒に連れて行ってあげたかったけれど、そうしたらこの子を待たせている人と会えなくなってしまう。
子供の僕ではどうしたらいいか分からなくて、僕は付き添いの人にどうすればいいか訊いてみた。
「ふむ…君は一体誰を待っているのかな?」
その人はその子に目線を合わせるように屈んで尋ねてくれた。
「あの…師匠を…アダン師匠を、待っています」
「アダン…?ああ、あのお方…。それなら、ツワブキ様が連絡先を知っておいでですので、アダン様へ連絡していただきましょう。ですからあなたも一緒に来なさい」
なんと僕の父とこの子の待ち人は知り合いらしい。数奇な運命に僕は驚いた。
「ねえ、一緒においでよ、一緒にご飯食べようよ」
僕はその子の手を取って、その子の目を見ながら言った。
「で、でも…迷惑掛けるし、私お金持ってないし…」
「そんな迷惑なんてことないから!お金なんかいらないよ、どうせ父さんが出してくれるし。ねえ行こう?」
何度も僕は誘うがその子はなかなかOKしなかった。迷惑だから、と言って。
でも付き添いの人が、是非そうしてくれ、ツワブキ様もアダン様に久々にお会いしたいだろうしと言うと、渋々ながらもようやくうなずいてくれた。
それから僕たちは父さんと合流して、事情を説明した。
そうしたら父さんは喜んで師匠待ちの子を受け入れてくれて、僕たちは一緒に食事をすることになった。
アダンという師匠には父さんが連絡を入れたようだ。
食事に行った先でもその子はとても礼儀が良くて、僕は何だか自分が恥ずかしくなった。
だってマナーなんてよく分からないし、ちゃんとは守れないし。
後からこの子が待っていたアダンって人も来た。こちらも礼儀正しくていい人だった。
食事が終ったあと、彼らはルネに帰ると言った。
僕はルネの街なんて名前しか知っていなくて、どこにあるのかも知らなかった。
どこにあるのかその子に訊いたら、海の中にあるんですよと言われた。
竜宮城は実在したのかと思った。
そして彼らはルネに戻って行った。
また会おうと約束もできなかったけど、また会えたらいいな。
僕はそう願いながら彼らを見送った。
「っていうことがあったね」
「ありましたね。あなたよくそんなこと覚えてましたね」
「酷いなあ、忘れるわけないじゃない。君との記念すべき出会いの日を」
僕は隣にいるミクリに向かって笑いながら言った。
小さい頃は竜宮城と思っていたルネに、今僕らはいる。
乙姫もいないし城もないけど、ここはとても綺麗でいい街だ。昼前だけど風がよく吹いて涼しい。
そんなルネの中、外界とルネを繋ぐ海に面した岩場に座ったまま僕は小さい頃の思い出を語った。
「君はあの頃から僕より礼儀正しかった」
「社長の息子ってこんなもんかと思いました」
僕を見ず、まっすぐ海を眺めるミクリの言葉は冷たい。
けどそれは彼の悪戯心だと分かっているから、僕は嫌とも思わず笑ってしまった。
「でもそう言うってことは、君も僕と出会った日をよく覚えているってことだろう?」
そこでミクリはようやく僕を見てくれた。少し困ったような表情だ。
「…私、記憶力いいですから。余計なことまで覚えてしまうんです」
「嘘だ。この前僕の家に帽子忘れて行ったくせに」
僕がそう言って笑うと、ミクリは決まりが悪そうに顔を背けてしまった。
僕らはあの日から今日まで、とても長い間を付き合ってきた。
…まあ、小さい頃のお友達としての付き合いと今のお付き合いは全然違うものになったけど。
あの出会いがなかったら僕らは一生出会わなかったかは分からないけど、あの出会いが僕のミクリへの興味を引いたことは確かだ。
あの日から僕らは始まったと言っても過言ではない。
「で?今日はどこに行くんですか?」
ミクリが僕に尋ねた。
「そうだなあ。そろそろ石を置く場所がなくなってきたから新しい棚が欲しいんだよ。だからデパート行こうか」
自宅の状況を思い浮かべたら石しか出てこなかった。でも他に思いつかないからいいだろう。
「あなたどんだけ石好きなんですか…」
「いーじゃない石!あれは素晴らしいものだよ!」
僕は立ち上がりながら言った。
「さて、ミクリ」
そしてミクリに向かって笑顔で手を差し伸べた。
「もちろん、一緒に来てくれるよね?」
「…何でもちろんなんですか」
「いーじゃん。棚運ぶの僕だけじゃ無理だし。業者にやらせたら家に持ち運んだとき石を傷つけられそうで」
「はあ…予想はしてましたがね…」
ミクリはふう、とひとつ溜息をついてから僕の手を取った。
「夜までにルネに帰れないときは…私をあなたのところに泊めてくださいね」
「それは、喜んで」
それから僕らはルネを出た。
あの頃と違う僕らは大人のいない場所で好きに会う。
好きに会い好きなものを食べ好きに過ごす。
けど君はあの頃と同じ礼儀正しさと、綺麗な顔と心、少しの憂いを持ち続けている。
僕は子供っぽさだけ持ち続けてしまったような気がする。
それでも変わらず君と共にいられることに、僕は計り知れないほど大きい喜びと幸せを感じている。
そしてそれはこれからも変わることがないように、と。
太陽の光に輝く海を眼下にしながら強く胸の中で祈った。
END.
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ダイミクの出会い話。
ミクリは小さい頃からアダンと一緒にいたらいいという妄想…。
大誤算は社交辞令学んだけど子供っぽさはぬぐえない気がします。
私の中でミクリ=可愛いなので、うちのミクリは受け受けしいですごめんなさい><
だがそれがいいのだ私は!