知りあって1カ月後のこと









余計なことばっか勝手に出てくるくせに、肝心なことは全く伝えてくれない、そんな俺の口。
今日こそ言うんだ。絶対に。








今日も君は地下に潜っているのだろうと思って、地下通路をうろうろする。
太陽の光は届かないけれどまだ昼だし、通気口から光が差し込むのでそこまで暗くはない。
もともとこの地方の気候は湿度が少なく、夏目前の今はさっぱりとしているので、地下もじめじめすることなく割りと快適。
せっかくだからとサンダースをボールから出して、一緒に散歩させてる。
彼も嬉しそうに歩いては小石で遊んで、また歩いている。
君はどこにいるのだろう。
見つかるかな。見つかってくれなきゃ、俺の今日の目的が果たせない。
今日こそ言うんだから。
休み休みのんびり歩いて、1時間くらい経っただろうか。
俺たちが今いる場所は地上で言うとどこなのかはさっぱり分からないけれど、人の声が微かに聞こえてきた。
その方に向かって進む。スピードは今までと同じで。
だんだん近づいたら、サンダースが耳と鼻をピクピクさせた。
おそらく何かの気配を感じ取ったのだろう。
「どうした、サンダース」
俺が訊くと、彼はこちらを見上げて、視線をまた前に戻した。前方に何かがいるということを知らせてくれたのだ。
あの人だろうか。あの人だったらいいのに。期待が膨らむ。
また少し歩くと、人が現れた。
大量の土を手押し車で運び出してると思われる最中の…ただの作業員だった。
膨らんだ期待が一気にしぼむ。
作業員は俺に一礼してからこう言った。
「こんにちは。デンジさんですよね?ジムリーダーの。この先は危ないですよ。ちょっと通り道塞がっちゃってて、今工事してるんで。ヒョウタさんが指揮取ってくださっているんですけど、結構大変で」
「…ヒョウタが?」
「ええ。そういえばお二人ともジムリーダーですよね。もし何かご用があればヒョウタさん呼んで来ましょうか?」
しぼんだ期待がまた風船のように膨らんだ。
何てできた作業員なんだ。そう思ったらうっかり口で「君いい人だね。昇給間違いなしだよ」だなんて口走ってた。
作業員はどう反応していいのか分からないのか苦笑していた。
ああ、もう。また余計なことばっか言うんだから。俺の口は。
「じゃあ、ヒョウタ、お願いします」
ぽつりと、俺がそれだけ言うと、作業員ははい、と答えて手押し車ごと戻っていった。
なんて素晴らしいタイミング。さすが俺。まじ天才。
機嫌がよくなってサンダースとじゃれてしまった。
だって嬉しいじゃん。タイミング合うし、何となく歩いてたのに会えちゃうし。ヒョウタに、会えちゃうし。
嬉しいじゃん。
「デンジ君すごい楽しそうにサンダースと遊ぶんだね」
…しまった。うっかり状況を忘れてじゃれまくってしまった。
顔をゆっくりと声がした方に向けたら、声の主のヒョウタがいた。当たり前だけど。
何だか意外そうな顔をしている。
「別にポケモンに愛情がないとは思わないけど、デンジ君て愛情とか顔に出さず無表情で愛でるって感じだからさ」」
ヒョウタはにこにこ笑いながらこちらへ歩み寄ってくる。
「お前すげー失礼なこと言ってるぞ」
「そっかなー。みんな思ってることなんじゃない?」
それも失礼だぞコラ。
「…そんなんじゃアイツも昇給なしだな、上司がこんなじゃ」
俺が呟いた独り言に、ヒョウタはえ?と答えた。
違う、違うだろ俺。こんな独り言を言うんじゃなくて、もっと言いたいことあるだろ俺。
相変わらず俺の口は勝手に要らないことばっか言うんだから。
さあ、言うんだ俺。今日こそ言うんだろ俺。
「ヒョウタ、あの…」
「んー?」
紅茶色の目で俺を覗き込むヒョウタ。
俺の方が背が高いから、ヒョウタは俺を見るときは自然と上目づかいになるわけで、今それをされているわけで、オマケに小首傾げ付きときたもんだ!
「まったく、おそいますよヒョウタさん」
「は!?///何バカなこと言ってんの!とうとう電磁波で頭イカれた!?」
「あー…ごめん言うこと間違えた」
「何と何の言葉を間違えたんだ今!」
いかん。またやった。
こんなくだらん下ネタ言ってる場合じゃない。
まあ襲いたいのは本心ですけどね!
だってヒョウタに上目づかいされてみろよ。襲いたくなるぞ。あ、でもそんなヒョウタん誰にも見せたくないな…って、だからこんなこと考えてる場合じゃなくって!
「あの…その…」
言いたいのに言えない。
言いたい気持ちは胸に溢れかえって零れ落ちているのに、恥ずかしさと不安が言いたい気持ちを全部すくいあげてしまって、言い出せない。
何ビビってんだよ、俺。早く言わなきゃ。ナギサのジムリがこんなことで怖気づいてどうすんだ。
サンダースだってちゃんと待っていてくれてるのに。
言うんだ、今日こそ。
今日ばかりは、勝手に動く口を押しとどめて。
君に近づくための、あのひとことを。
「ヒョウタ!」
「えっ、はい!」





「ポケッチの番号交換してください!!」





俺がようやく言えた一言に、頑張って言った一言なのに。
君は笑ってばっかだし、サンダースは呆れたように眠り込むし。
でも、ヒョウタのアドレスゲットできたから、まあいいや。





END.







-----------------------------------------------------------------------------

結論:デンジはヘタレ
変態なこととか、愛してるーとかなら言えるのに、「そのくらい言えよ」ってことが言えないデンジ(笑)
ポケッチは電話もできると信じてる(記憶が曖昧