君の声
デンジの自宅のリビングで、デンジとヒョウタはソファに座りながら映画のDVDを見ていた。
本日の天気は雨で出かけられないので家の中でDVDを見ることにしたのだ。
デンジは背もたれに腕を乗せ足は組みながら、ヒョウタは黒いクッションを両腕で抱え込みながらそれぞれテレビの中の映画に見入っていた。
外国のSFアクションものの超大作であるその映画は、2人を充分に映画の世界に引き込んでいた。
それで2人は話もせず映画に見入っていたのである。
雨の音も耳に入らないくらい大音響で見ているものだから、迫力も相当なものだ。
時はそのまま流れていき、映画が終わるときには外は暗くなりかけていた。
ただ、雨はいまだに降り続いていた。
映画が終わると映画の迫力のせいで張りつめいていた空気が緩み、2人はふう、と溜息をついた。
「おもしろかったね、これ」
ヒョウタがデンジに向かい、言った。
「最近見たやつだと一番よかった」
デンジがDVDをケースにしまいながら答えた。
「続編とかできないかなあ」
「できるんじゃね?続きそうな気するし」
それから2人は映画の感想を口々に述べ出した。
素晴らしいものを見た後の興奮はなかなか止まないから、2人の感想の語りあいも随分長引いた。
見終わったときには暗くなりかけていただけの外はもうすっかり暗くなって、夜になっていた。
雨はまだ降っている。
「僕ね、敵の狙撃主好きだった」
感想の言い合いの中で、ヒョウタが言った。
彼が言う敵の狙撃主とは、主人公の敵であるが狙撃特に銃の腕がかなりあって頭も切れる、主人公にとって恐るべき存在だった人のことである。
「へえ、何で?悪い奴だったじゃん。ヒロイン殺そうとしたし」
デンジが興味深そうに尋ねた。
「あ、違うんだ。何て言うんだろう…役的には嫌いなんだ。君の言うとおり悪い人だし。でもね…」
「俳優が好きとか?」
「あー…近いとは思うんだけど、僕あの俳優さんについて詳しくないし。そうじゃなくて、僕はねぇ……あの人の、声が好きなんだ」
ヒョウタは自己解決したようですっきりしたような顔でデンジに言った。
「声?」
それに対しデンジは怪訝そうに訊いた。
「うん、そうだ声が好きなんだ。今気付いたけど」
確かにあの狙撃主はいい声をしていた。
敵を狙う時の緊迫した状況での、あの囁くようなかすれ声。
主人公を追い詰めたときの自信に溢れた力強い声。
どちらも魅力的な声で、その声で口説かれればどんなお堅い女性でも落ちるだろうと思われるほどだった。
それはデンジも承知していたし自分の方でもそう思っていた。
けれど。
自分の恋人が自分以外を、例え一部分でも褒めてそれを「すき」と言ったことに対して何も思わないほど、デンジは大人ではなかった。
加えて自分の不機嫌を上手く隠し通すほど器用でもなかったし、そうする気もなかった。
「…どんくらい好きなの」
デンジは不機嫌そうに、低く小さな声で呟いた。
「結構好きだなぁ。いい声してるよねぇ」
ヒョウタはにこにこと嬉しそうに笑いながら言った。
しかしそれがまたデンジの心にマイナスの意味でのしかかる。
「(そんな嬉しそうに、好きって言うなよ。俺以外を)」
デンジの心はそんな風に落ち込んでしまった。
未だ止まない外の雨は、今や映画の音を失くしたこの室内にちゃんと届いておりそれがデンジの心に冷たく降りかかっているようにも思われた。
「だってさ」
ヒョウタは嬉しそうに話を続けた。
「デンジ君みたいなんだ」
「……・え?」
ヒョウタの言葉に、デンジは驚いた。
ここにいない人の話をヒョウタがしていることで嫉妬していたのに、彼がまさかいきなり自分の話を持ち出すなんて予想だにしていなかったから。
「デンジ君の声もさ、あの人みたいにかっこいいけど綺麗でさ。普通に話しているときの声も君がバトルしているときの声も、全部がかっこいいなあって思える声してるよ。そんな君の声に似ているから、僕はあの人の声も好きなの」
どこか照れたように、顔を赤らめながら言うヒョウタ。
デンジはそんなヒョウタを見て、自分の子供っぽさを恥じながらもヒョウタへの愛しさが積った。
気持ちに蓋など用意していないから、愛しい気持ちは溢れる一方だ。
「(お前だってちゃんと俺のことを見ていてくれているんだよな)」
だからこそヒョウタにはあの狙撃主役に対する好きがあるのだ。
「(俺に似ているから好きだ、なんて。じゃあ本物はどれだけ好きなんだか)」
愛しさはまだ積もる。
デンジは想いを抑えることはできず、ヒョウタをぎゅうっと胸の内に捕えた。
ヒョウタは最初こそ慌てふためき離れようとしたが、やがてそれもなくなった。
「俺も、お前の声すきだぜ。声だけじゃなくて全部がすきだけどな」
そう、極上の甘い声でデンジが言ってやればヒョウタは先ほどよりももっと顔を赤らめて。
だけど言われたことはとてつもなく嬉しいことばかりで。
だからヒョウタも返した。
「うん、僕も、君の全部がすきだよ」
それを聞いて満足したデンジは、ヒョウタの耳元に口を近づけた。
声を褒めてくれたことへの感謝と嫉妬してしまったことへの謝罪と、積もり続ける愛を言葉に乗せたかったのだ。
そしてゆっくり口を開き、囁くようにヒョウタの耳元で呟いた。
「愛してる」
雨はまだ降っていたけれど、前よりも小降りになっていた。
もうじきに止むだろう。
END.
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伝票休日の1コマ(笑)
デンジさんはいちいち嫉妬します。
ヒョウタは内面乙女全開です(^∀^;)
私はどうもデンジに脳内でぐるぐる考えて欲しいようです…