空が飛べたら









「どうして俺は鳥ポケ持っていないんだろう」
僕の家で、僕のソファでぼーっと座っていたデンジ君が不意に口を開いた。
床に座って炭鉱の地図を見ていた僕はデンジ君の方を向いた。
「鳥じゃなくても浮くやつなら何でもいい。どうして持っていないんだろう」
そんなことを僕に言われても困る。ゲットすればいいじゃないか。
でもきっとデンジ君ならそんなこと自分でちゃんと分かっている。分かっているけど疑問に感じるんだろう。
「どうしてそんなこと言うの?」
デンジ君は僕を見てから呟くように言った。
「ここ、遠い」
たったそれだけしか言わなかったけれど、そのセリフには負の感情がにじみ出ていたのが僕には分かった。
寂しさだとか、悲しさだとか、切なさだとか、そんなつらい感情が。
遠い。その言葉は僕にとっても嫌だった。
デンジ君が住むナギサと僕が住むクロガネは本当に遠い。大きな山が間に立ちはだかっているし。
本当に遠くて。会いたくなったときにいつでも会える、なんて距離じゃない。
僕はプテラを持っているからいいけど、デンジ君はいつも歩いて来てくれる。
大変だろうから僕が行くと言っても、俺が勝手に行きたいだけだからと言って断られる。
だけどやぱりナギサからここまで歩いてくるのは相当しんどい。
だから彼もひこうタイプが欲しいのだろう。でもでんきじゃないからゲットするのにもためらいがある。
でんき・ひこう両方併せ持つポケモンなんてあの伝説の鳥ポケしか思いつかないし。
「遠いんだ」
デンジ君がまたぽつりと呟いた。膝を抱えて頭を膝に埋めて、ソファの上でうずくまっている。
「それは、僕にとっても悲しいことだよ」
僕はデンジ君にそっと歩み寄って、彼の背中に手を置いた。
今日のデンジ君は疲れて弱っているんだ。じゃなきゃこんなこと言わない。
こんな…心の奥底にじっと溜めこみ続けた、自分の弱い気持ちを。
「ずっと一緒にいたいのに。会いたいときに傍にいたいのに」
顔を伏せたまま、弱々しい声でデンジ君はそう言い続ける。
彼が紡ぐ言葉は彼の気持ちそのものでもあり僕の気持ちそのものでもある。僕も君と一緒の気持ちだよ。
何度、今会いたいと思ってはそれができないことを嘆いただろうか。
何度、すぐ彼の元に行けない自分にふがいなさを感じただろうか。
何度、この距離を恨んだだろうか。
そう仕方ないことですぐ落ち込んで、悲しんで、会いたい気持ちは募るばかり。
それだけ会えたときの喜びが増すことは知っているけれど、でもそれだけじゃ満たされない。
「ヒョウタ、俺は…」
デンジ君が顔を上げて僕を見た。そして彼は彼の左手で僕の右頬に触れて、言葉を続けた。
「お前とこうしていたいのに、ずっと」
「うん、僕も、君とずっと一緒がいいよ」
デンジ君の手が僕の髪に触れる。とても心地いい。本当にずっとこうしていたい。
でもそんなの無理。僕らが遠い距離を超えられる時間なんて決まっている。
夕方になればまた君は帰ってしまうんだ。分かっているよそんなこと。僕も、君だってそうでしょう。
分かっているからこそ切なくてつらくて、ずっと傍にいることをまた願ってしまう。
遠い。そのことがどうにも僕らを傷つける。
「…ジバコイルって、乗れるのかなあ」
ふっと笑いながら言ったデンジ君につられて僕も笑ってしまった。
そうだね、空が飛べたらいいね。
いつか君がその術を手に入れたら、僕らもっと幸せになれるよ。絶対。





END.







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伝票小話。
スターが弱々しくてすいません…どうもうちのスターは内面が弱くて;
いつもはもっとベタベタなんだ!たまにどちらかが弱いとこうなるんだよ!そうに違いない!
いつかでんきひこうが現れるといいなあ…サンダー以外に。