バカと言われ怒られる









星だなんて、誰か実物を見たのか。
誰も実物を見てないはずなのに、こんな1人間を星にするな。星に失礼だ。
誰かに褒められるのも持ち上げられるのも嫌じゃない。
嫌なのはそれが1日中、何日だって持続することだ。
会ったときに褒められればそれで嬉しい。けど誰にも会わない時も何もしていないときもテレビやら本やら人の会話やらの中で褒められ持ち上げられ、スター扱い。
あんまり高い場所に追いやられるから、いい加減嫌気がさしてくる。
俺の何が分かっていて俺を褒める?容姿?強さ?
どうせ何も分かってはいないんだ。実際会ったことない奴が大半なんだから。
疲れた、なんて言ったってそれすらかっこいい、だなんて。俺だってただの人間なのにさ。
むしゃくしゃしてジムいじって停電させてナギサの人たちには迷惑かけてしまって申し訳ない。
だけど俺だって嫌になるときがあるんだ。人間なんだからさ。
まあ、そんなわけで俺は実際…逃げたんだ。
逃げるって言ったって、本当に逃げ去るつもりはなかった。ちょっと誰もいない場所に行きたかっただけ。
満足したらまたすぐ戻ってくるつもりで。俺この町好きだしね。
誰にも見つからないように夜、ナギサを出た。
でも道を行く気はさらさらなかった。道は絶対に誰かに見つかるだろうから。
俺が選んだのは地下。シンオウ中に巡っている地下道だ。
こんな夜になら地下には誰もいないだろう。
そう思って、俺はいそいそと地下に潜った。







夜の冷えた空気が土肌と俺とにぶつかって気持ちいい。
やっぱり1人はいい。孤独主義じゃないけど、少しは1人の時間が欲しい。
地下にいるから星も見えない。スターなんて気にしなくていい。
この道がどこの町に繋がっているのかは知らないが、俺は気の向くままに進んだ。
しばらく歩いていると、このまままっすぐ進む道と、右に曲がる道が現れた。
だが右に曲がる道の前には膝くらいの高さでロープが張ってあって、「危険、入るな」という紙が貼られていた。
崩れそうなんだろうな、岩とかいっぱいあるんだろうな、とは思う。
思うけど…入る。そうしたくなるのが人間ってモンだろ?
だから俺はロープをまたいで入った。危険なことがあれば頑張って回避するさ。
こっちの道には何があるのか、そう考えながら歩くだけで楽しかった。
けどただ歩くだけではもったいないと思い、俺は適当に土の壁を叩いてみた。
ぱらぱらと土がこぼれ地面に落ちる。
それを何回も繰り返したり、たまに土に埋まった石を取れるかなと思って動かしたりしてみた。
取れなかったけど。
こういう単純作業は無心になれるからいい。だから俺はしばらくこんなことを続けてた。
と、そのとき。
「何してるんだ!」
いきなり俺がまぶしい光に照らされたと同時に誰かがそう叫んだ。
光の方を見ると、叫んだ奴の姿が見えた。赤いヘルメに赤い髪に…眼鏡を掛けた男。
そいつは手に懐中電灯を握っていて、それで俺はまぶしい光が懐中電灯の光だと知った。
「ここ、道に入る前に入るなって書いてただろう?」
呆れているようにそいつは言った。
「書いてたけど、いいかなって思った」
俺は正直に答えた。それで許されると思った。今までそうだったから。でも、違った。
「君はバカか!」
って、言われて。しかも言われながら、叩かれた。俺の頭を、そいつの手で。
俺はびっくりしてしまって唖然とそいつを見ていた。
「何で危険って書いてるのにいいとか思っちゃうわけ!?そういうことしちゃいけませんって、君大人なのにそんなことも分からないのかバカ!子供でも分かるよバカ!」
こいつは一体何なんだ。何、こいつ。バカバカって、俺そんなことオーバにしか言われたことないのに。
オーバは昔から付き合いがあるからいいけど初対面の人にバカバカ言われるなんて初めてだ。
さすがに俺もちょっとムカついたから言い返した。
「てめえ黙って聞いてりゃバカバカ言いやがって!どう見たってお前のが年下だろうが!」
そうしたらそいつも負けずに言い返してくる。
「君がバカなことしたからバカって言っただけでしょーが!」
またこいつバカって…!
「お前だってここ入ってんじゃん!」
「僕はここで働いているから知識もあるしいいの!君はここのこと詳しくないでしょうがバカァ!」
本当に何なんだこいつ。俺を知っているとは思えない。俺を知るやつは絶対にこんなこと言わない。
じゃあ教えてやろう。お前が暴言吐いてるやつは、超強くてすげえやつなんだって。
…何だ、俺は結局周りに褒められ言われ続けていることを思ってしまった。
自分でもスターな気分ではいるんだな。あんまり言われるとむかつくだけで。それだけだったのか。
「お前俺が誰だか知ってて口聞いてんのか?」
「知ってる」
形勢逆転できると思ったのにそいつはあっさり答えた。さらにそいつは続ける。
「デンジさんでしょ?ナギサのジムリーダー。ナギサのスター。シンオウ最強ジムリーダー。電気使い」
よく知ってるな…じゃなくて。
「知っててそんな口聞くのかお前は」
「いけないことをした人は誰であろうが叱るのが普通でしょう?」
そいつは溜息をつきながら言った。
しかし俺は、そいつのその一言にひどく感心した。
誰であろうが。偉いも酷いも、善も悪も、みんな平等?
言われてみれば、怒られたのなんてすごく久しぶりかもしれない。
もてはやされてばかりでなまけたってまたそれがいいだなんて言われまくって。
ずっとそんな中過ごしてきたから、こうはっきり怒られることなんてなかった気がする。
オーバはたまに怒ってたけど俺が反抗したら最後には諦めてたっけ。
初対面の奴に、こんなに言い返されて自分の非を咎められたのなんて本当に何年振りだろう。
「…あのねえ、君、何がいけなかったのか分かってる?」
さっきから黙ったままだった俺に、そいつがまた呆れたように訊いてきた。
「ロープ張ってるのに入ったこと。入るなって書いてるのに入ったこと」
年上には敬語使えよと思いながらも、俺は質問に答えた。
「はあ…それもあるけど…君、危険って書いてあることには何も思わなかったわけ?」
「んーまあ…危ないんだろうなあ、とは思ったけど」
「君って本当にバカだね」
バカって今日で何回言われたよ俺。こいつちょっと言いすぎだ。そして話は続く。
「危険って…君にとって危険だって分かってる?」
「まあ…崩れたら危ないよな、俺」
何でもなさげに答えれば、そいつはまた顔をキッとさせて言った。
「それが何でいけないことか分かってるの!?」
「…?つまり?」
「つまり、君が怪我する可能性があるから危険だって言ってるの!崩れたら危ないどころか君は怪我するの!そんなことになったら大変だし君が怪我するなんてことあってはいけないんだからこれはいけないことだって覚えとけバカ!」
一気にまくし立てたそいつは息が上がってはあはあ言ってた。
「…俺が怪我したらだめなの?何で?」
俺はそいつの言葉の中でふと疑問に思ったことを尋ねてみた。
「あのねえ、君はバカだけど、命ある生き物なんだから。生き物は絶対に大事にしないとだめなの。さっき君が触ってた土も石も生きているんだから大事にしてよね」
命ある、生き物。それは、絶対に大事。
そんなこと俺だって知ってる。知ってはいるけれど。
心の底じゃどうだってよかったんだ。だから危険って文字を見てもまあいいかって思うんだ。
こいつは違うんだ。本当に生き物が大事って思ってるんだ。だから怒るんだ。俺が自分を大事にしないから。
こいつの言うとおり、俺はバカだ。こんな簡単なことに今やっと気付くんだ。
星に例えられて俺の方でも舞い上がってはいたんだ、どこかで。嫌気は確かにあったけれど。
その驕りが危険っていう感覚を鈍らせていた。いいことと悪いことの区別さえなくなっていた。
悪いことしたってどうせみんな許してくれるって、思っていたところがあったかもしれない。
それを、初対面のやつに教えられるなんて。やっぱり俺は星じゃない。星に失礼だ。
「本当に、もう怪我してしまっていたらなんて心配したじゃないか…」
目の前のそいつは溜息つきながらそう言った。
「…怪我、してなくてよかった」
そして、呆れたように垂れ下がった眉はそのままに、だけど目と口は穏やかに笑っていた。
こんな顔すると、こいつ女みたいだな。髪長いし。
「もう夜遅いから帰ろう」
笑いながらそいつが言った。もう怒ってはいないようだ。
来るときに抱えていた俺の嫌気はすっかり消えていた。







地上に出たら星がたくさん輝いていた。ナギサの近くだと分かった。星は綺麗なままだった。
「お前、名前は?」
そいつが去ってしまう前に訊いた。どうしても知りたかった。知っておきたかった。
「ヒョウタ」
ヒョウタ…どっかで聞いたような…どこだ…?
俺が無言で首をかしげていると、そいつ…ヒョウタはクスッと笑ってから言った。
「最近、クロガネのジムリーダーに就任したんだ」
クロガネ…ジムリ……あ、そういや最近新しいジムリがクロガネに就いたって聞いたような…ってお前!?
思いだしたときにはヒョウタはもう暗闇の中に消えていた。
最近集会サボッてたから分からなかった。
けど今日の収穫はかなりデカイ。
俺を叱る人がいる。そいつは悪いことした奴なら誰だって怒るんだと。
俺を心配する人がいる。生き物は絶対大事で、土も石も一緒なんだと。
俺が悪いことしたら、怪我しないかって心配する人がいる。かっこいいじゃなくて、心配したんだと。
そんな人がいる。赤い髪で眼鏡掛けた、地下にいた人。
名前はヒョウタ。クロガネっつったな。遠いけど会いに行こうかな。ジムサボッて。





END.







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伝票出会い話。
数年前ってほどでもない最近の話。ヒョウタんがジムリなりたてくらいに出会いました。
これがきっかけでデンジはヒョウタに怒られるのが好きになってMへの道を進んだとか(笑)
うちのヒョウタんは内面乙女なので罵り言葉はバカくらいしか言えません。
でもデンジと交流が深くなるにつれていらん言葉覚えだすっていう…!
石が大事って言ってるのは石に化石が入ってたらどうすんだこのやろうって意味です(^∀^;)
デンジは無気力だけどいろんなこと思ってたり考えてたりはする。